2008年07月02日

第四十二夜 「3D」という隠れ家バー

~港町・バー・アート(5)~

「トアロードでは食べ物屋は美味しくないとはやらない」
これはある雑誌の編集者の言葉です。三ノ宮の中心から少し離れたところに位置するからでしょうか?
確かに味と個性のお店が多いように思います。

「トアロード」・・・この名前の由来は諸説あるようですが、トアロードを上りきったところにあった東亜(トーア)ホテルに由来するというのが有力な説のようです(弓倉恒男著「神戸トアロード物語」より)。
トアロードに半世紀以上住んでおられる方は「バカもん!トアホテルからに間違いない!!!」と断言されました。

とても神戸らしい名前だと思います。
大正から昭和にかけて活躍した作家稲垣足穂(いながき たるほ)は、由来がはっきりしないこの路について「・・(トアロードという)名前をつけた彼はとてもよい感覚の持主であったことを想像させる」(緑の蔭―英国的断片「タルホ神戸年代記」より)と記しています。ここでいう「彼」が誰なのか、誰にもわからないのがまたなんともいいですね。たぶん特定の誰でもない、この坂を行きかった人たちなのでしょう。
(因みに稲垣足穂の代表作は「1千一秒物語」という作品のようです。このブログは「千話一夜物語」です。「千」と「1秒」か、「千」と「一夜」か、なんとなく近い感じがしますが、実は足穂先生をよく知りません。)

 トアロードは北野町に住んだ外国人が旧居留地のオフィスに通った通勤路で、パン屋、洋服の仕立て屋など、西洋の生活文化がいち早く日本で根付いた場所です。
昔の神戸のお洒落はオートクチュールだったと聞きました。ネクタイ、背広、シャツ、靴などそれぞれの専門店で自分流にそろえることで、感性が磨かれていったようです。トアロードは神戸のお洒落を発信した場所のひとつで、「マキシン」など全国的に知られた老舗帽子屋さんが今も営業されています。
前にも書きましたが、華僑の人たちにとっては三刃(サンパ)といって、三つの刃(包丁=中華料理、ハサミ=仕立て屋、カミソリ=床屋)のどれかを身に着ければ食べて行くことができる、という伝説が生まれた場所でもあると聞きました。



写真:青柳ビル入り口の目立たない看板

個人的なことながらトアロード周辺で飲み会があると2軒目は『木馬』でバナナジュースを飲むか、BAR『3D(スリーディ)』でもう少しアルコールを補給するかが自分流のコースになっています。


写真:バー3D 青柳ビル入り口

 3Dのマスター小川さんは以前紹介したバー「DEEP」のオーナーだった方です。工事現場のような薄暗く細い通路の向うに桃色の霧がたちこめたクールな空間を演出した人のことだけあって、3Dもなかなか非日常の空間です。古いビルの2階にあるのですが、お店の看板は目立たないように入り口の端っこにあります。階段を上って行くと迷路というか、無機質な通路が無性に長く感じられて、この奥にお店があるのかどうか少し不安になります。


写真:路地から怪しい窓を見上げる・・窓に薄く3Dのシールがある


 テーブル席はコンクリートブロックの上に大きな天板が置かれているだけのものですが、広く空間を使っていて開放感がありますし、(外国人向けの家具なのでしょうか?)ソファも大きめで座り心地もゆったりとしています。会話を邪魔しない程度にロックなどがかかっていて、いい雰囲気の隠れ家的なバーです。


 

 お店の場所は生田新道とトアロードとの交差点からトアロードを海側へ、一つ目の路地をトアウエスト方面に曲がって、突き当たりを右へ、またすぐ左へ曲がり、すぐのところ(青柳ビルという古いビルの2階です)・・・・と、なかなか分かりにくいと思います。僕の説明が下手なのですが、わざとわかりにくい謎めいた存在でありたいようでもあります。
おつまみにはココナッツスライスをお勧めします。
お店の電話は TEL:078-321-5828 です。



  


Posted by alterna at 17:42Comments(3)