2009年03月31日

第五十六夜 BAR「Heaven(ヘブン)」

~港町・BAR・アート(9)~


 震災前のことですが、三宮の朝日会館の地下に「神戸ハイボール」というバーがありました。朝日会館自体が雰囲気のある建物(外壁を保存して建替えられたので、今もその風情があります)でしたが、神戸ハイボールも感じの良いバーでした。社会人になってすぐの頃ときどき寄っていました。
 記憶だけですが、入り口は西部劇に出てくる酒場を思わせるような小さな扉が左右に開くようになっていました。店内はカウンターと3~4名に手頃なテーブル席が二つほどだったと思います。長く居座るのではなく「仕事帰りにちょっとよって、一杯ひっかけていく」のが似合うようなバーでした。マスターはいつも白のバーテン服に蝶ネクタイをした小柄な方でした。
ハイボールという飲み物を初めて覚えたのもこのバーでした。ハイボールを頼むと、ウィスキーをソーダ水で割って、マスターは最期に気合を入れるように小さく切ったレモンの皮をコップの上で絞って、香気を降らせてから出していました。レモンの香りを判別できるような味覚も嗅覚もありませんでしたが、腕をくるくる回してレモン皮を絞るポーズが様になっていて、今もそのシーンを覚えています。
 うれしいことにハイボールを頼むと赤茶色の薄皮のついたピーナツとカレー味のジャガイモのスライスも付いていました。ハイボール一杯400円くらいだったと思います。神戸ハイボールは1954年(昭和29年)創業で1990年(平成2年)に朝日会館の建替えの頃に移転し、その後の消息は知らないままでした。



写真:BAR「Heaven(ヘブン)」店内

 2008年(平成20年)秋。たまたま連れて行ってもらった元町のBAR「Heaven」。南京町西門から南へすぐのアミーゴスビル4階にあるBARですが、マスターの田中さんは、かつて朝日会館の地下にあったバー「神戸ハイボール」をこよなく愛した方ということが分かりました。「神戸ハイボールのカレー味のジャガイモスライスが懐かしいです」と言うと、「ピクルスでしょう。ここで作ってますよ」と言われ、久しぶりにお目にかかりました。


写真:ハイボール・ピクルス・ピーナッツ


 しかも田中マスターは僕がよく参照にした成田一徹さんの切り絵で構成された「酒場の絵本」の文章を書かれた方です。
 「神戸ハイボール」のページには次のような言葉があります。

 『APRILあたりで、踊るのはやめて、JULYあたりで、ジュークもやめて、
 SEPTEMBERあたりで、飲むのもやめちまって・・・・・。
 NOVEMBERでは車も停めて・・・・。
 そう、小さな古いホテルが灯台の向こうにあったろう。
 「DECEMBER INN」という名前の。               』



写真:マスターのコレクション帳


 酔いに心を預け、ペンを走らせたような謎めいたかっこよさを感じます。
 マスターご自身の座右はフランスの詩人の言葉で「漂えども、沈まず」・・・とか。
 なかなか深い言葉です。




■閑話休題

春を感じるものがいろいろとあります。
人それぞれに自分の春の象徴を持っていると思います。
僕のそれは
「強く長くなってきた3月初めの日差し」「梅」「桃の花」「コブシ・木蓮」「黄砂」「花粉」・・などです。

先ごろ元町でうろうろしていた帰り道
南京町の西門を出たところで何気なしに見上げると、夜空一面に白い木蓮(実はコブシと木蓮の違いが分かりません)が咲いていました(3月18日)。
「お見事!」と思って写真に撮りました。


写真:南京町の木蓮


葉より花が先に咲くものは・・・桜、木蓮・コブシ、ぼけ、など・・春に多いのでしょうか?

  


Posted by alterna at 10:32Comments(1)